■ アプリでの印象：言葉数は少ないのに世界観が濃い

彼女のプロフィールは、写真と余白のバランスが異常に良かった。

・30代前半
・職業は「Creative / Art direction」
・ギャラリーの片隅で、横顔だけ写っている写真
・もう一枚は、夜の街をぼんやり撮ったスナップ
・自己紹介は「美しいものと、美味しいお酒が好きです」の一文だけ

年収も学歴も書いていないのに、
十分すぎる情報量があった。
自分の“見せ方”を完全に分かっている人のプロフィールだ。

俺「写真、雰囲気すごいですね。プロの人の画角な気がする」

彼女「仕事がそういう感じなので、つい。撮られる方はあんまり慣れてないですけど」

この“少し引いた返し”で、距離の取り方の上手さが分かる。
盛り上げすぎないのに、ちゃんと興味はキープしてくるタイプだ。

■ 当日：春の空気と一緒に現れた、淡色ワンピのクリエイター

待ち合わせ場所に現れた彼女は、
淡いグレーのロングワンピに、薄手のコートを軽く羽織っていた。
色味は控えめなのに、シルエットだけで十分に目を引く。

「はじめまして。なんか、思ってたより“経営者感”ないですね」

俺「その表現、褒めてる？」

彼女「もちろん。ちゃんと人っぽいって意味です」

言い方が完全にクリエイター側の人間だ。
ラベルではなく“空気”で人を見ている。

歩きながら話していても、
会話の合間に、街の光やショーウィンドウをちらちら観察しているのが分かる。
仕事柄なのか、世界を常に“画角”で見ている人だった。

■ 一軒目：春の夜景と、アートの話でゆっくり温まる

選んだのは、夜景がふんわり見えるダイニング。
春特有の、少し霞んだ光が外のビル群を柔らかく包んでいる。

彼女「この窓の反射、きれいですね。外より中の光が勝ってるの、好きです」

俺「見方が完全にクリエイターだね」

彼女「職業病です。たぶん一生治らないやつ」

そう言いながら、ワイングラスの縁をくるくる指でなぞる。
仕草がいちいち画になる。

仕事の話も、ただの自慢や愚痴にならない。

彼女「“これ綺麗だね”っていう感覚を共有できる人とじゃないと、恋愛も続かない気がしてて」

俺「それは、だいぶハードル高いね」

彼女「でも、妥協すると後から絶対作品に出るから」

“恋愛”と“作品”を同じレイヤーで語るあたり、
完全に仕事と生活が溶けているタイプだ。

■ 二軒目：春風が抜けるバーで、色気と本音が少しだけ近づく

食事のあと、少しだけ歩いて、
春の夜風がうっすら入ってくるようなバーへ移動した。

彼女「このくらい暗い照明、ちょうどいいですね。顔が綺麗に見える」

俺「それを自分で言えるの、強いよね」

彼女「職業柄、光にはうるさいので。褒めてますよ？」

グラスを軽く合わせてから、
彼女のトーンが少しだけ落ち着いた。

彼女「正直、アプリってあんまり期待してなかったんです」

俺「まあ、分からなくはない」

彼女「でも、ちゃんとお互いの世界持ってる人同士って、意外と楽ですね」

彼女は、依存よりも“並走”を求めている感じがした。
そういう人は、大抵恋愛にも変な執着を持たない。

彼女「ちゃんと“自分の作品”持ってる人じゃないと、隣にいたくないんですよね」

俺「それは仕事の話？人の話？」

彼女「どっちも、です」

春の夜風が、少しだけ窓を揺らした。
その音と一緒に、彼女の本音がテーブルの上に落ちてきた感じがした。

■ 帰り際：春の柔らかさを残したまま、余韻だけちゃんと残す

外に出ると、冬ほどではないが、
まだ少しだけ肌寒い風が吹いていた。

彼女がコートの前を軽く合わせながら、少しだけ近づいてくる。

彼女「今日は、“ちゃんと大人の余裕ある感じ”で良かったです」

俺「それは、また会っていいって意味？」

彼女「…作品的には、続編見てみたいかも」

そう言って、小さく笑う。
具体的な言葉は避けつつ、好意だけは十分に伝えてくるタイプだ。

春の夜にちょうどいい、“甘さ7割・余白3割”みたいな終わり方だった。